Column

血栓溶解療法(t-PA)治療

執筆者 獨協医科大学脳神経内科 竹川英宏,平田幸一

 脳卒中のなかの脳梗塞と呼ばれる病気は,脳の血管がなんらかの原因で詰まってしまう病気であります(詳しくは,“診療お役立ち情報”の“脳卒中の診断と治療”にございます).
 脳梗塞がおきると,脳梗塞中心部では,脳の組織が腐ってしまう“壊死”と呼ばれる状態となります.そして脳梗塞中心部の周囲は,“脳梗塞になりかけている状態(ペナンブラ領域)”であり,血液の流れの状態などで,すぐさま脳梗塞になってしまいます.さらに,脳梗塞のまわりには,水分がたまってしまい(“浮腫”とよばれます),さらに脳の障害は進行してしまいます.
 これまでの脳梗塞における薬物治療は,血液を固まりにくくする点滴や内服薬により,血の塊が大きくならないようにしたり,脳梗塞を生じた部位以外の血管が詰まらないようにしたりすることが中心でありました.
 これに加えて,“脳梗塞になりかけている部位(ペナンブラ領域)”を脳梗塞にならないように保護したり,“浮腫”を軽減する治療を行っておりました.
 したがって,脳梗塞の治療を行っても,何らかの後遺症を残してしまうことが少なくありませんでした.
 これに対して欧米では,“脳梗塞を治す治療”が行われておりました.この治療は,脳梗塞をおこされて間もない時に,脳梗塞の原因となっている,“血の塊”を溶かして,症状をなくす治療であります.日本では,一部の脳卒中専門病院などで,保険適応外治療として行われておりました.そして,その治療効果が証明され,2005年10月より日本でも保険診療として治療を行うことが可能となりました(“t-PA治療”).
 しかし,脳梗塞をおこされた全ての方に対して治療ができるわけではありません.
 一番の問題は,脳梗塞の症状が出現してから,3時間以内に治療を開始しないといけない点であります.そのほかにもいくつかの適応基準がありますが,患者様がご来院されてから,適応基準を診断してt-PA治療を行うためには,症状が出現してから2時間程度で病院に来ていただかないとなりません.
 t-PA治療の重篤な合併症には重大な脳内出血があります.しっかりと適応基準を満たしている方でも,状況によっては脳内出血をおこす可能性がありますが,適応基準を逸脱した方では,その確立は何倍にも増加してしまいます.
 当院での調査では,脳梗塞をおこされてから病院までに2時間以内にいらっしゃった方は,全体の15%にも満たない数字でありました.
 また,t-PA治療の適応外となってしまった方でも,“一刻も早く病院へ来ていただいたほうが,予後が良い”という調査もございます.当院での調査では,症状がおこってから6時間以内にご来院された方と,6時間以降にご来院された方では,早期にご来院された方のほうが,“症状の改善が良い”という結果を得ております.
 新しい脳梗塞の治療“t-PA治療”も保険適応となり,症状が出現してからの一刻も早い専門病院への受診が望まれます.

t-PA治療の適応となる患者様

1. 症状が出現してから3時間以内に治療が可能な方
2. 重篤な意識障害などがない方
3. 治療前に急激に症状が改善していない方
4. 軽度な症状の方
5. 動脈瘤,脳血管奇形,脳出血の既往などがない方
6. 大きな脳梗塞が予想されない方
7. 最近,心筋梗塞や手術をしていない方
8. 血液異常や治療により降圧が困難な高血圧がない方

t-PA治療マニュアル(医療従事者向け)

1. 説明用紙
2. Japan Coma Scale
3. NIHSS
4. アルテプラーゼ投与チェックリスト
5. アルテプラーゼ投与方法
6. t-PA投与後チェック用紙

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